税理士の長村です。
昨晩、うとうとしながらTLを見ていたら、ドヤ顔でマイナンバーカードみたいなやつを持った写真をあげている人がいたのですが、
マイナンバーカードとはなんか表記が違うので「何だこれ?」ってTLを遡っていくと、これは「e-Residencyカード」なるものだということがわかりました。
e-Residencyカードと言われても、さっぱり何のことかわからなかったのですが、ネットでググるといくつか記事が出て来ました。
簡単にいうと北欧のエストニアという国の電子市民IDのことを「e-Residencyカード」というそうです。
へぇー。ということで、そこからなんか興味が湧いて、夜明け前まで散々掘り返すことになったので、忘れどめを兼ねてまとめておきます。
あくまでググったまとめなんで、そこんとこよろしくお願いします笑
e-Residency制度とは
北欧に今のロシアから独立したエストニアという国があります。
あまり聞きなれない国なんですが、一部では北欧のシリコンバレーと呼ばれる位のIT先進国になっています。
EU加盟国で、国の財政状態もユーロ圏随一なんだそうです。
エストニア発の有名なIT企業にはSkypeなんかがありますし、ブロックチェーン関連のフィンテック企業もたくさんあります。
エストニアは過去ソビエト、第二次世界大戦中はナチス・ドイツ、その後は現ロシアに支配されたりと、これまでその地理的環境に翻弄されてきました。1991年にやっと独立することにはなりましたが、そういった過去の歴史的背景からエストニア政府は、「e-Residency制度」をスタートさせたそうです。
※この立地関係はなんだか日本に似ていますね笑
e-Residency制度とは、そもそもエストニア国民の電子ID制度からスタートしたそうなのですが、2014年からはエストニアの非居住者向けに「電子居住ID」を付与する制度が開始されました。なぜこのような制度をエストニア政府が推し進めたかというと、エストニアの電子IDを持った国民を増やすことにより、今後エストニアという領土が奪われて国民が世界中に散らばったとしても、オンライン上でエストニアを存続させようという意図(電子政府構想)からなんだそうです。当然、国外の非居住者に対して自国のIDを付与するのですからエストニア国内に対する投資を期待しているであろうことも伺えます。
エストニアの非居住者は
インターネットで申請することによりe-Residensyカードを取得することができます。
e-Residencyカードはエストニアの滞在ビザや身分証明書の代替としては使用することはできないのですが、エストニア法人を活用してユーロ圏でビジネスをスタートするための様々な権利が付与されます。
- エストニアに(100%外資で)法人をオンラインで設立できる。
- エストニアに銀行口座をオンラインで開設することができる。
- 役所での事務手続き、税金の申告、納税等の業務を全てオンラインで行うことができる。
とまぁ、エストニア法人を設立してビジネスをスタートするための手続きが全てオンラインでできてしまうのです。
さらには、税制を簡素化することにより、国外からの投資を呼び込むあたりもさすがですね。
エストニアの税制
(法人に対する税金など)
エストニアの法人税は20%とされています。しかし、株主に配当するまでの間はその稼得した利益に対する課税は留保されるそうです。
つまり、株主に支払った配当金の金額に対して一律20%の税金を課税するだけなので、毎期の節税を考慮する必要がありません。
また、エストニア国内の投資に対するキャピタルゲインは非課税になるようです。
最近、日本とエストニアとの間で租税条約の署名が行われました。
当該租税条約が締結されるのはまだ先にはなりますが、下記のHPでは条約の内容を見ることができますので、実際にエストニア法人を用いてビジネスをする場合には必ず押さえておきたいところです。特に配当金に対する源泉所得税の取り扱いや、エストニア法人の所得に対する課税権の帰属関係については重要な論点です。
本日、日本国政府とエストニア共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約」の署名がタリンで行われました。我が国とエストニア共和国との間では、これまで租税条約は存在せず、本条約は、両国の緊密化する経済関係等を踏まえ、新たに締結されるものです.......。
他には、法人で従業員を雇用すると給料や賞与等の金額に応じて「社会税」というものや雇用保険料等が徴収されるそうです。
(所得税)
所得税の課税対象は全世界所得とされており、所得税の税率は一律20%だそうです。
非居住者であれば現地での所得税を考慮する必要はありませんので参考程度ですが、エストニア法人からの配当金に対する源泉所得税の有無は確認しておくべきでしょう。
(相続税・贈与税)
相続税や贈与税はないそうです。
(消費税)
日本の消費税と同じような付加価値税(VAT)というものがあり、原則20%(軽減税率あり)が課税されます。
まとめ
10年前、英語表記の「inc.(インコーポレーテッド)」という表記に憧れて、アメリカ法人の設立なんかを勉強したことがあるのですが、アメリカのデラウェア州では当時からインターネットでアメリカ法人を設立することができました。しかし、銀行口座をアメリカで開設するためには現地に行かなければならず、かといって、その作りたてのアメリカ法人が日本で銀行口座を開設するのも難しい現実がありましたので、正直あまり使い勝手がよくないなと感じたものです。
しかし、エストニアのe-Residencyカードを取得すれば法人の銀行口座もオンラインで開設することも可能であることから、日本に居住したままユーロ圏に対するビジネスの窓口を確保することができます。
また、エストニアは電子国家を志向していることから、エストニア独自の暗号通貨の発行も検討しているという話も出てきていますので、エストニア法人を介してエストコインに投資するというのも悪い話ではなさそうです。
しかし、税務的にはH29年税制改正でタックスヘイブン税制のトリガー税率(租税負担割合:20%)による判定が廃止され、外国子会社の経済実態に応じて課税する形に改正されています。ペーパーカンパニーやブラックリスト対象国に所在する外国子会社についてはタックスヘイブン税制による合算課税の対象となってしまいますので注意が必要です。
※エストニア法人の株主である日本在住の個人に対しては所得税のタックスヘイブン税制の適用がありますので注意したいところです。
国が新規仮想通貨公開 エストニア検討
北欧バルト3国のエストニアが「新規仮想通貨公開(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)」の実施を検討していることが分かった。仮想通貨「エストコイン」を発行する。ICOは企業や団体が資金調達する手法として広がっていたが、実現すれば国家として世界初の試みとなる。エストニアは公的サービスの電子化を進めており、仮想通貨の活用でさらに利便性を高める狙いがある。
2017/8/23 17:55日本経済新聞 電子版